縄文杉まで行かなくてもよかった。白谷雲水峡の途中、苔の上で雨に打たれた美容師(28)が体験した、輪郭の消える時間。
「傘は3分で畳みました。意味がないので」。屋久島は月に35日雨が降ると言われる島である。美容師の彼女が体験したのは、白谷雲水峡の途中、予定が全部流れた日の午後だった。
「最初は最悪って思ってたんです。レインウェアの中まで濡れて、ザックの中も浸水して。でも苔の上に座って、諦めて打たれてたら、途中から気持ちよくなってきて。雨と汗と川の音の区別がつかなくなって、どこまでが自分でどこからが森か、分からなくなったんです」
「東京に戻って、雨の日が嫌いじゃなくなりました。ビルの雨は森の雨の親戚だと思うと、ちょっと許せる。あと、お客さんの髪を洗うとき、たまにあの森を思い出します」。畏敬の念は、シャンプー台にも出張してくるらしい。