MOLT  ›  特集  ›  FEATURE 03 — MIDNIGHT BUS
ESSAY

深夜バスの窓側は、動く書斎である。

時速80kmで運ばれながら、人はやけに正直になる。日本でいちばん安い個室、深夜バス窓側席のすすめ。

TEXT: MOLT編集部・M ILLUSTRATION: 線画置き場 ◷ 読了 約4分 2026.07.11
seat 11A — window 80km/h thoughts
11A。カーテンと窓の隙間、幅12cmの劇場。

深夜バスの窓側の席は、日本でいちばん安い個室である。23時40分、消灯。カーテンの隙間から、知らない街の看板が流れていく。隣の乗客は他人、行き先は同じ。この「ひとりだけど、運ばれている」感じが、深夜バスにしかない。

01

飛行機は速すぎる

飛行機は速すぎて、考えごとが追いつかない。新幹線は明るすぎて、考えごとが照れる。深夜バスの暗さと遅さは、思考にちょうどいい粘度を与えてくれる。窓に頭をつけると、悩みごとが振動でほぐれていく。

時速80kmの個室で、人は正直になる。
02

深夜2時のパーキングエリア

昼間は言い訳が上手な脳も、深夜2時のパーキングエリアの自販機の前では素直だ。缶のコーンスープを握って、記者は転職を決めた。あの15分の休憩がなければ、今もあの会議室にいたと思う。人生の会議室としては、破格の4,200円である。

周りを見ると、みんな同じ顔をしていた。スウェットで、寝癖で、コーンスープで。深夜バスの休憩所には、肩書きを脱いだ人間しかいない。あれは日本で数少ない、全員が「途中」の場所だ。

03

で、眠れるのか

眠れない。でも、それでいい夜がある。着いた朝の街がやけに新しく見えるのは、寝不足のせいだけではないと思う。編集部は首枕の持参を強く推奨するが、眠れない夜の思考も、旅程の一部として計上してよい。

— fin —
MOLT編集部・M夜行バス通算62本。首枕への投資額だけで飛行機に乗れたことには気づいていない。
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